後世に伝え残したい記憶〜プロ野球、南海ホークス・杉浦忠
昭和34年プロ野球日本選手権シリーズ、南海ホークス対読売ジャイアンツ(以下巨人)
移動日を挟んで第3戦は、巨人の本拠地・後楽園球場で行われました。
連敗で、もう負けられない巨人の先発はエース・藤田元司。
対する南海も3連投となるエース・杉浦忠先発のエース同士の対戦となりました。
両投手譲らぬ投手戦となり、1ー1で迎えた9回裏巨人の攻撃はワンアウトランナー1・3塁、犠牲フライでもサヨナラの絶好のチャンスとなりました。
この試合途中杉浦投手は、指の皮がめくれ血が吹き出し、血染めのボールを投げていました。
ボールを捕球した野村克也捕手は驚き、マウンドへ駆け寄ります。
野村『スギ、大丈夫か?ボールが血で真っ赤やないか』
杉浦『大丈夫や。ノム、(鶴岡)監督には言わんとってくれ』
杉浦投手の投じる血染めのボールを捕球し、一球一球丁寧に手で擦り血を拭き取って投げ返す野村捕手。
入団一年目も含め、この年も大車輪の活躍、どうしても勝ちたい宿敵・巨人との選手権シリーズ、3連投、相手エースとの点のやれない投手戦、プレッシャーの中9回。
さすがに疲れもある杉浦、ベンチを見る。
しかし鶴岡監督はマウンドには目をやらず、杉浦を見ようともしない。
杉浦投手に全幅の信頼をよせる鶴岡監督。
杉浦に替わるべき投手もいない。
続投。
『史上最強のアンダースロー』
『魅惑のアンダースロー』
とよばれた杉浦投手に対し、ここで左打者との対戦。
(注、当時アンダースローと言われた杉浦投手のフォームは、現在ではサイドスローとされることもある)
杉浦投げる。
打球は左中間ヒットコース。
『抜けた!サヨナラ』
――と、誰もが思った次の瞬間。
相手左打者にも関わらず、予め左方向にポジショニングしていて、このシリーズ再三好守備を見せていた中堅・大沢啓二がまたも超ファインプレー!
完全にヒットコースと思われた打球を好捕しただけでなく更に、タッチアップした三塁ランナーを好返球で本塁で刺す。
サヨナラのピンチを免れた南海は延長10回表勝ち越し点をあげ、その裏を杉浦が抑え3連勝で王手をかけることとなりました。
再三好守備を見せていた、大沢啓二のこの9回裏の超ファインプレーは、大きかった。
このプレーがなければ、南海の4連勝はなかった。
日本シリーズの歴史も変わっていた。
南海は過去、守備のミスで巨人に負けたことが多かっただけに、このシリーズそしてこの試合での大沢外野手のファインプレーは、ひときわ輝き歴史に刻まれています。